SAGA INC. × SHOCHU X が語るリブランディングの意図
今回は、昨年11月に行ったSHOCHU Xのリブランディングに伴走いただいたSAGA INC.のクリエイティブディレクター寒河江さんをお招きし、弊社代表の橋本とともに、生まれ変わったSHOCHUXのデザインに込めた意図について深くお話を伺います。
ボトルデザインと情熱が繋いだ、寒河江さんと橋本さんの縁
─ まずは、寒河江さんと橋本さん、お2人の出会いからお伺いします。
橋本(SHOCHU X):ちょうど1年前ですね。それまでSHOCHUXのデザインは大学の先輩に作ってもらってやっていたのですが、新しい商品(煌星)を始めるにあたり、違う方にデザインをしてもらったらどんな感じなるんだろう?と思ってデザイナーを探していたんです。
そんな時、家に並べてあるお酒の瓶を眺めている中で、僕が好きなクラフトジン「香の森」が目に入りました。
「香の森」は日本のジンの中で僕が一番好きなジンで、味わいはもちろんなのですがデザインとの一貫性がとても好きで。そういえば、このジンのデザインをしたのって誰なんだろうと思い、調べたらすぐ寒河江さんの名前が出てきました。実績を拝見すると、他のお酒のデザインも結構やられているし、これはお問合せしてみようと思って連絡をとったのが始まりです。
─ ボトルデザインが繋いだ出会いだったのですね…!寒河江さんとお取り組みすることはすぐに決まったのですか?
橋本:はい。お問い合わせの後、お話してすぐに一緒にやることが決まりました。
一方で取り組みをはじめた当初は、新商品のデザインについて色々考えていたのですが、どうもしっくりこず、なかなか決められずにいました。
何度も話していく中で、寒河江さんから「いっそのことリブランディングしませんか?」と言われて、自分の中でストンと腹落ちしたというか、安堵にも近い感情を覚えて、その場で「そうしましょう」と返答したことを覚えています。
そう言っていただけたことが、自分にとってもブランドにとっても本当に良かったと思っています。
─ お互いの第一印象はいかがでしたか?
寒河江(SAGA INC.):一言で言うと「情熱的な経営者」という印象です。橋本さんが抱えるミッションが、シンプルで非常に研ぎ澄まされていると感じました。初めてお話を聞いた時、この人の人生に関わるんだな、とさえ思いました。なので、これは凄い仕事になるな、と直感的に思いましたね。
橋本:僕は、最初に寒河江さんに相談した時にとても親身に相談に乗っていただいたことを今でも覚えています。デザインに限らず、外部のパートナーと仕事をすることは度々あるのですが、ただの業務委託、受託という関係性が個人的には嫌で。想いを共有して、一緒に熱を持ってくれるような人と一緒に仕事をしたいと考えています。
そういった点において、寒河江さんは是非一緒にやっていただきたい方だと思いました。
寒河江さんのデザインの信念
─ 寒河江さんご自身は、普段デザインをされている上で大切にされていることは何かありますか。
寒河江:言葉にするのは簡単で実現するのは難しいことですが「人生の喜びや幸せに寄り添えるデザインであること」を大切にしています。ブランドを作る仕事では「単なる物の価値よりも関係の価値」を重視しています。
あたり前のことですが、一つひとつのデザインは社会にとって人の細胞みたいにちっぽけなものですが、それが群れになると社会の雰囲気とか時代性を表現することになるし、突き詰めるとそのデザインと生活する人の内面にも影響を及ぼす可能性もあると言えます。
なので、ブランドの社会的な存在意義やターゲットの自己実現とライフスタイルに寄り添うあり方を悩んで提案しています。
結果的にはクライアントとも一緒に巻き込んであれこれ議論して決めていきますが、世にあるブランドや商品には少なからず「人や社会に必要とされる優れた点」があると思うので、それを見つけ体現するためのブランディングやデザインをゴールに設定して、結果的に「人の幸せ」に寄り添えるデザインや「社会をよくする心の変革」のきっかけになるようなデザインを提供できたらいいなと。
─ 人の幸せに寄り添い、社会を良くしていくためのデザイン、とても素敵です。そのような信念を持つに至ったきっかけが何かあったのでしょうか。
寒河江:ポジティブ心理学の創始者でマーティン・セリグマン博士という方がいらっしゃいます。彼は、心理学をそれまでの「心の痛みをなくすための学問」から「幸福を生み出すための学問」へと発展させた方として有名なのですが、とある番組でデザインについてこのように語っていました。
今、コロナ禍にあって社会学者も人類史の大きな転換点と指摘されているように、乗り越えていかなければならないことが目の前にぶら下がっている時代です。
僕という1人の人間ができることは微力ですが、このセリグマン博士の言葉を聞いてから、「良い未来像」をクライアントをはじめ色々な人と共有しながら、少しでもできることを見つけてブランド活動として実行していきたいと思っています。
SHOCHU Xのリブランディングに込めた想い
─ SHOCHUXのデザインにおいても、「良い未来像」を描くところから着手されたのでしょうか。
寒河江:橋本さんの焼酎に対する熱い思いや行動も突き詰めると「人との関係」にあるので、僕のデザインに対する考え方と重なる部分があって、そういう点では似た物同士で方向性の共有は話が早かったです。
例えば、パッケージのラベルデザインでは自社のブランドを広告的に押し付けるようなあり方はやめようというところはサッとハードルを飛び越えて、お客さまのライフスタイルや自己実現、焼酎を日本独自の文化として世界にに届けていく上で、SHOCHUXがどのように人と関わることができるかを想像しながら、悩むべきところでしっかり時間をとって進めることができました。
─ その結果のアウトプットが、単なるパッケージデザインの変更ではなく、ブランド全体の「リブランディング」だったと。
寒河江:僕から見ると、以前のデザインは「高級に見えること」を強く意識しているように感じていて、SHOCHUXが本来表現したい情緒的価値に対して異なるデザインになっているのでは、と思っていました。
そこでまず橋本さんと話したのは、その文脈に合わせて次の商品(煌星)をやるのか、ということでした。
同じ路線で拡張をしていけばいくほど、後戻りは難しくなる。もしデザインの方向性が橋本さんが思い描いているものと異なるのであれば、傷が浅いうちに変えてしまったほうがいいんじゃない、と思ったんです。
ブランドの印象、提供価値といった概念の部分から、ロゴの使い勝手といった運用の部分まで、僕として少なからずよくできる要素はあるな、という確信がありましたし、将来的にも良い結果になると思ったので、リブランディングを提案しました。
橋本:今になってリブランディングをして本当に良かったなと感じています。以前のデザインを担当してくれた大学の先輩も、今のデザインをとても良いと言ってくれていて応援してくれています。
─ リブランディングで、ブランドの印象も以前と大きく変わりました。正直、ここまで舵を切ることは怖くなかったですか?
橋本:怖い、という感情は全くなかったですね。むしろ、僕自身としてもデザインに対する課題意識があったため、何とかしないといけない、という思いの方が強かった。
例えば、僕としてSHOCHUXは、より多くの方に焼酎を愉しんでいただくために、バー等これまで焼酎があまり置かれて来なかったような場所にも置いてほしいという思いがあるのですが、これまでの伝統的な焼酎と同じような瓶のデザインでは、そういった場所に置いていただくにはアンマッチのデザインだと感じていました。
寒河江:リブランディングに合わせ、SHOCHU Xでは日本を代表するバーテンダー酒向明浩さんに焼酎をメインにしたカクテルレシピを考案していただいたり、SNSなどで焼酎の愉しみ方の発信もはじめていますね。
バー自体も、洋酒文化主体の時代から日本のお酒文化や食文化を含めたインターナショナルな感性へと変わっていく中で、リブランディングしたSHOCHUXが新しいバースタイルにも貢献しながら豊かな日本独自のカルチャーの創出へと発展させていけるのではと将来が楽しみです。
─ リブランディングに込めた想いをお伺いしたいです。
寒河江:橋本さんからいただいたオーダーは非常にシンプルで「SHOCHUXらしいものを作りたい」というものでした。
それをひも解いていくと、橋本さん自身が、焼酎も世界で戦えるくらいのポテンシャルがあると実感していて、それを伝えるためのデザインをお願いします、というものでした。
なので、日本らしさはありながら今までどおりではだめだ、あるいは日本らしさはありながら海外に通用しなければいけない、そういうハイブリッドなものを求められたという認識でした。
それを表現していく上で、いかに焼酎というものを現代的に解釈して、より広い方々に対して「いかに幸せを享受できるか」というものに再定義していく、という考え方をしたいと思いました。
例えば今の時代、ネットで商品を買うことが当たり前になり、商品のパッケージに求められる価値も、従来の店頭で見つけやすいというあり方から、ネットで買った後にどうあるべきかということに比重がシフトしてきたと感じています。
そういった変化も踏まえ、ブランドを認識させるためにロゴを大きくしたりということは極力やめて、その代わりにインテリアの一部のように部屋に馴染み、みんなで「美味しいね」と愉しめる時間を演出するものになりうるか、ということを大事にしました。
ブランドの認知の面では思い切って切り捨ててしまった部分もありますが、結果としてこれからの焼酎を形作る文化的な取組にフィットする在り方を提案できたと思っています。
3つのラベルデザインに込められた意図
─ 今回のリブランディングでは、ブランドロゴからパッケージデザインまで幅広くデザインがリニューアルされましたが、その中でも特にボトルデザインの刷新がとても印象的でした。デザインに込められた意図をお伺いしてもよいでしょうか。
寒河江:では今回は3つのラベルデザインについてお話できればと思います。
橋本:焼酎の製造過程や、焼酎の多様性を広めるというブランドのコンセプト、酒蔵の方々を尊敬する気持ちまで含め、ブランドの軸を上手く表現してくださったと感じています。
リブランディングの先に見据える、焼酎の未来
─ リブランディングを通じて、SHOCHUXというブランドとデザインがシンクロしていると感じました。
橋本:寒河江さんには、SHOCHUXの商品のことはもちろんですが、今焼酎がどういう現状かということも何度もお伝えしていて、SHOCHUXが目指す大局観をデザインに落とし込んでいただいたと思っています。
寒河江:橋本さんからは、最初の方のミーティングで焼酎業界の課題意識を凄く伝えられました。それを突き詰めて伺っていくと、とても社会的で、利他的で、言っていることが全て利己的でないんですよ。
橋本さんの原動力がそこにあるから、何をやっても「焼酎のあるいい未来像」へと向かっていくような安心感がありました。なので「商業的に」とか「儲かるために」ということではなく、よりお客様のためになるデザインを追求したいと思いました。
橋本さんがリブランディングをすることを決意してくれたのも、商品を単に届けたいのではなくて、焼酎にまつわる伝統文化や未来への可能性、そこに心血を注ぐ酒蔵をはじめとする人たちの存在をリスペクトして、多くの人たちに見つけやすくする、業界全体の灯台のような役割を担いたいという志があったからだと思います。
橋本:業界全体とか、僕が言うのもおこがましいのですが…!でも言ってしまいがちですね(笑)まさにそこが会社を立ち上げた原動力でもあるので、業界の課題は常に意識していたいと思っています。
焼酎はいわゆる伝統産業です。何百年続く商品を作っていて、酒蔵を一生の生業としてやっている方たちと僕は肩を並べてやっているので、僕自身も簡単に諦めては行けないと思っています。
業界を革新することは決して簡単なチャレンジではありませんが、意地でも続けないと、と思っています。
ユーザーのみなさんへ届けたい体験
─ リブランディング後のデザインを通じて、ユーザーのみなさんに届けたい価値や体験について教えてください。
橋本:これまで焼酎には縁遠かった人が、SHOCHU Xの焼酎を見て「焼酎って今こんなおしゃれなのがあるんだ!」と思ってもらえると嬉しいです。
リブランディング後、大変ありがたいことにお客さまからデザインについてお褒めの言葉をいただいたり、SNSで拡散いただけることが多くなりました。改めてデザインの重要性を感じています。
寒河江さんも先程似たことを仰っていましたが、デザインが良いことで、これまで興味が無かったものに手を伸ばすことがある、と考えると、デザインは一人の人生を変える力があると思っています。
デザインが入口になり、焼酎に興味をもち、焼酎を好きになり、ひょっとしたら僕のように焼酎業界で働く人も出てくるかもしれない。それだけの可能性を秘めているデザインが出来たと僕は思っています。
寒河江:僕自身は従来型の焼酎のデザインがダメだとは全く思っていません。作り手の魂を感じる、良いデザインだと思っています。
一方でそのデザインだけでは感じ取れないものや、時代の変化の中で「焼酎のデザインはこういうデザインだ」という固定概念があることで、可能性を狭めてしまっているとしたら、それは残念なことだと思います。
橋本さんに感じるのは、そこを突き抜けてくれそうな気がする、人が持っている可能性を認めてくれる人。ご自身にとっても、周りの人にとってもそうだと思います。
そういうブランドに触れていくことの価値を、是非SHOCHUXのデザイン、焼酎を通じて、是非味わってほしいと思っています。
これからの日本は、人口も減少していく中で、ますます人が資源の時代です。
これからの時代を担う、若い人たちにこそ触れていただきたいですし、
夢を一緒に飲んで欲しい、と思っています。